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ブラック企業、ブラックバイト、そして奨学金問題

若者の夢を壊すことほど罪深いことはありません。

流行語大賞候補にもなった「ブラック企業」という言葉を知らない人はいないでしょう。もともとブラック企業とは労基法違反が常態化している企業のことを言いますが、この言葉を世に知らしめたNPO法人POSSE代表の今野晴貴氏によれば、その特徴は若者の使い捨てにあります。すなわち、新規学卒者を正社員として大量に採用し、違法な労働条件で働かせ、身体や人格が壊れるまで使い潰し、最後はポイ捨てします。そこに、一人一人の人材を時間かけて丁寧に育てようとする発想はありません。従前の日本型雇用や労務管理とは全く異なる企業です。

A社は、エステシャン、マッサージ師を各地のホテルや旅館に派遣し、施設内のマッサージコーナーで施術を行わせる会社でした。A社は、主に専門学校を卒業した新規学卒者を大量に採用し、労基法違反が常態化した過酷な労働環境で働かせ、その結果1年、2年という短期間でほとんどの者が離職しています。まさにブラック企業の典型です。昨年、元エステシャンの女性ら勇気ある6人がA社(及び取締役)を被告に仙台地方裁判所に訴訟を提起しました。ブラック企業相手の裁判は全国で初めてのことです。原告の一人Bさんは、法廷で次のように訴えました。

「これからの世の中、若者たちが苦しむことはあってほしくないのです。経営者は正しい知識を持って経営に携わってほしいです。ブラック企業をなくし、よりよい生活の中で楽しく仕事ができる未来に変えていけたらと強く望んでいます」

ブラック企業は、若く有益な人材を使い潰し、若者から将来の夢を奪います。Bさんたちは、エステ・マッサージ業界で働くことを夢見て専門学校で学びA社に入社しました。しかし、Bさんたちは今や同じ業界で働くことについて嫌悪感しかありません。A社は単なる労基法違反にとどまらず、Bさんたちに対し、新規学卒者としての雇用機会の喪失とこれまで身に着けてきた学歴及びそのための時間・費用・キャリアの喪失をもたらしました。Bさんたちは、経済的にも、精神的にも、極めて重大な損害を被っているのです。

上記訴訟は全国的に注目を集めており、全国から支援者や今後同様のブラック企業相手に裁判に立ち上がろうとしている従業員等が毎回多数法廷傍聴につめかけ、訴訟の行方を見守っています。

②ブラックバイトについて

高額の学費、親の収入の減少(子どもに仕送りできない)等のため、アルバイトをせざるを得ない学生が増えています。しかし、仕事に見合った給与を払わない、試験前に休ませてくれない、試験中でも休ませてくれない、ミスをすると罰金を取られる(給料減額)、辞めたいと言うと「違約金を請求する」と言って脅迫する等のブラックバイトが増加しています。

ブラックバイト問題に取り組む中京大学教授の大内裕和氏によると、ブラックバイトは一言で言えば、学生であることを尊重しないアルバイトのことです。それまで正規労働者が担っていた仕事を非正規労働者に代替させることが常態化している(非正規労働の基幹化)のを背景に登場し、低賃金であるにもかかわらず、正規労働者並みの義務やノルマを課されたり、学生生活に支障を来すほどの重労働を強いられることが多いです。上記大内氏によれば、今や大学はかつての「レジャーランド」から「ワーキングプアランド」に変身しています。

ブラックバイト対策は、とにかくおかしいと感じたらもよりの労働基準監督署に相談することです。そしてブラックバイトを辞めることです。「今辞めたら違約金を請求する」等の脅しは真っ赤なウソですからこれに屈する必要は全くありません。

③諸悪の根源~奨学金

1977年当時、国立大学の学費(授業料)は年間9万6000円、奨学金は自宅生で月1万3000円、もちろん無利子です。それが現在国立大学の授業料は実に53万5800円で1977年当時の5倍以上、1969年の授業料1万2000円に比べれば、実に45倍です。

奨学金も様変わりしました。昔「日本育英会」と言っていたものが「日本学生支援機構」に変わり、当時教育職に就いた場合の免除制度が廃止され、現在免除職はありません。無利子の第一種奨学金と利息付の第二種奨学金があり、第一種は枠が非常に狭く、圧倒的多数は第二種奨学金利用者です。

以下は中京大学教授の大内氏からの引用です。第二種奨学金を毎月10万円借りるとして、4年間で480万円です。貸与利率3%で返済総額は645万9510円です。月賦返済額2万6914円で返済年数は20年、就職後すぐに払い始めたとして払い終わるのが43歳です。延滞すると年利10%の延滞金が発生し、延滞後の返済ではお金はまず延滞金の支払に充当され、次いで利息、最後に元本に充当されるので、半永久的に延滞金を支払い続けることになります。そして、不況の長期化、給料カット、リストラ、企業倒産等により奨学金の支払ができず延滞する人が増加しています。2004年にはわずか200件だった「支払督促」(裁判)の申立件数が2011年には1万件と、7年間で50倍に拡大しています。

昔は、返済を怠ると他の奨学金利用者に迷惑がかかると言われていました。しかし、今は違います。2010年度の利息収入は232億円、延滞金収入は37億円に達し、この金の行先は銀行と債権回収会社です。今や、奨学金は貧困ビジネスと化しています。

現在奨学金利用者は学生の5割を超えています。2人に1人は奨学金利用者です。と言うことは、結婚相手も奨学金利用者である可能性が大です。自分も奨学金利用者、相手も奨学金利用者では返済で生活が成り立っていかず、結婚を躊躇せざるを得ません。奨学金問題は非婚・少子化を招いています。日本の未来に暗雲をもたらしています。

若者がブラック企業に就職せざるをえないのも、奨学金問題が関わっています。奨学金を返済するためには企業を選んでいる余裕はないのです。また、ブラックバイトがはびこるのも、できるだけ奨学金を借りる額を少なくするため多くのアルバイトをせざるを得ないからです。

このように、奨学金は諸悪の根源になっています。

2014年度予算から、延滞金の利率が年5%に削減、返済猶予期限が5年から10年に延長される等の制度改善が行われましたが、まだまだ不十分です。給付型奨学金の導入、無利子奨学金枠の拡充、個人保証の廃止、延滞金制度の廃止等抜本的改革が急務です。